原田マハ_黒幕のゲルニカ&イヴァン・モラヴェッツの Mozart Piano Concerto No.20 k.488 :20160604

勤務する場所が変わって、

郊外に向かっていたのが、行き先が都心となり、
電車が混むのはもちろんですが、一番つらいのは、電車の中で本が読めなくなったことです。

今まで、読書の時間の大部分は電車の中でしたが、
その時間が無くなり、相対的に出会う本の数が減ってしまいました。

それでも、休みの日には、

冷たいビール、またはワインのコルクを抜いて、大好きな田部さんのピアノをCD で聴きながら、
ほろ酔い気分で何冊かの本は読んでいます。

少し前に書きましたが、
今年の本屋大賞の「羊と鋼鉄の森」、「書店主フィックリーの物語」はとても良い本でしたし、

有川浩さんの「ストーリー・セラー」も、
ビブリア古書堂の事件手帳の作者三上延さんの「 江ノ島西浦写真館」も、川口俊和さんの「コーヒーが冷めないうちに」も良かった。


でも、
これら最近読んだ本の中で最も心に残っていて、今もずっと余韻が残っている本があります。

余韻の中で、Mozart Piano Concerto No.20 K.466 が鳴り続けている一冊があります。

原田マハさんの絵画本の最新作「黒幕のゲルニカ」。

キュレーターであった原田マハさんの創り出す画や画家を主人公とする作品は、今まで何冊か読みましたがどれも外れはありません。

どれも作品に出てくる画や画家がより身近に、そして、愛しいものになっています。

ルソーと「夢」(楽園のカンヴァス)、モネと「水連」(ジヴェルニーの食卓) etc etc ・・・。


原田マハさんの作品を読み、映像化して欲しいと以前から思っていたのですが、「黒幕のゲルニカ」はミステリーも、サスペンスとアクションの要素も持っていて、まさにエンターテイメントの一冊だと思います。

スケールという点では、今までの作品の中では最大ではないでしょうか。

お話は、２つの物語、
過去と現在の２つの物語がパラレルに語られ、

それがピカソの傑作「ゲルニカ」により有機的に結び付けられています。


スペインの内戦1937年4月26日、共和国の一つの都市であったバスク地方のゲルニカを、フランコ将軍を支援するナチスドイツのユンカース爆撃機等が無差別爆撃を行いました。

焼夷弾を初めて使用した爆撃ともいわれていますが、多くの一般市民が殺戮されました。


つい最近、
アメリカのオバマ大統領が広島を訪問しましたが、規模は違うものの、一般市民を爆撃で殺戮するということでは、広島や長崎の原子爆弾の投下と同じことが、スペインのゲルニカでも行われたのです。

無防備、

何の防御の手段をも持たない一般市民を、ユンカース爆撃機からの焼夷弾で焼き尽くすのは殺人以外の何物でもありません。
こんなことは、人のすることではない・・・。

パリでフランスの新聞を読んでこの事実を知ったピカソは、アトリエに閉じこもり、モノトーンのこの大作を仕上げます。
独裁者、大量殺戮に対するピカソの強いメッセージ、抗議として無二の大作「ゲルニカ」を。


ゲルニカは万博のスペイン共和国館に展示され、ファシズムへの対抗、殺戮への絶対の反対を唱えます。

パリの陥落の時には、アメリカニューヨーク近代美術館(MoMA). へ、
スペインが本当に民主主義の国になるまでは返さない、ピカソの言葉通りに預けられます。

アメリカに行かなかったら、ナチスによりファシズム反対の絵画として焼却されていたのでしょう。

一方、9.11の同時多発テロにより最愛の夫を亡くした、MoMAのキュレーター八神瑤子、

その後のアメリカを中心とする多国籍軍のイラク侵攻の背景の下、ピカソの展覧会を企画します。


繰り返しの報復は何も解決するものではない・・・、

夫を亡くしながらそのメッセージを展覧会から発信しようと、フランコ総統の死後、スペインに返却されてから門外不出となっていたゲルニカを借り出そうと、MOMA理事長ルース・ロックフェラーと奇想天外の戦略を。

そこにバスク独立を目指すテロリストも加わって・・・。

果たして、ピカソの戦争との闘い、
ゲルニカは再びニューヨーク近代美術館(MoMA). に展示されるのか。

絵画とは、書斎や応接間を飾るためのアクセサリーだけではなく、個人の感情の発露等だけでなくて、

もっと大きなイデオロギー、主義主張、世界を人類を動かしうる大きな力を持っているのだと、
時には命がけで発信するものなのだと・・・強く強くこの作品で教えられました。



「ピカソの戦争。それはすなわち、私たちの戦争。

　ピカソが、私たちが戦っている敵は---「戦争」そのものなんだ。

　私たちの戦いは、この世界から戦争という名の暴力が、悪の連鎖がなくなる日まで続くんだよ---」　P222



「どんな困難があろうともあきらめずに挑戦を続けてきた君を、ぼくは誇りに思う」P350


ワインを飲んでいたせいもありますが、読みながら思わず目頭が熱くなっていました。

最後のシーンを読んでいるとき、イヴァン・モラヴェッツのMozart Piano Concerto No.20がかかっていました。


「黒幕のゲルニカ」、
主人公のピカソの、八神瑤子の思いとぼくのこころと思いとないまぜになって、

こころの奥のずっとずっと奥の方まで、イヴァンの音色が・・・揺らめきの音色がしみこんでいきました。


イヴァン・モラヴェッツの２０番気良いな。

イヴァン・モラヴェッツ(1930年11月9日 ～ 2015年7月27日）はチェコのピアニスト。

このCD で初めて聞いたピアニスト、

タッチの響きが柔らかくて美しい。

それに、
わずかな響きの揺らめきのようなものがあって、それがモーツアルトのニ短調協奏曲にはとても魅力的です。

本を読むときに CD を聞きながらが多いのですが、

今までも、本と曲を一緒に記憶しているものがいくつかあります。

石田衣良の「美丘」とレミオロメンの「夢の蕾」、村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」とボンジョビの「HAVE A NICE DAY」、
藤谷治の「船に乗れ」とラフマニノフの「チェロソナタ」etc etc ・・・。

「黒幕のゲルニカ」とイヴァン・モラヴェッツの Mozart Piano Concerto No.20 k.488 も、
こころの引き出しに、ちゃんとしまいました。


良い本に出合えるのは本当に幸せです。

そして、一本のワインと、休みの日のゆっくりとした時間に感謝です。

静かな２５時間目・・・、イヴァンのピアノ。

" 2016/06/04 Maha Harada Guernica of mastermind "

コメント 34

私は郊外に向けての通勤電車がけっこう快適に過ごさせてもらっています。
寝てばかりですが。。。^^;
by ナビパ (2016-06-08 06:17) 

「羊と鋼鉄の森」昨日読みました。一味違う本でした。最近北鎌倉はご無沙汰です。
by takenoko (2016-06-08 08:52) 

電車の中で本が読めるというのはわかります
通勤時間が長いほど読めますね
最近出かける事が多く本読まなくなっています。
これでいいのか？？
by きよたん (2016-06-08 11:20) 

上記に有る原田マハさんの本は読んでいます。好きな作家さんでこちらで「黒幕のゲルニカ」を購入なさったと拝読してコメントを差し上げましたが、まだ読んでいません。
今、宮部みゆきの「ペテロの葬列」を読んでいてもう少しなんです。次はゲルニカです！
by ponnta1351 (2016-06-08 12:53) 

この本は、ぜひと、、待機中です
原田マハさんのワールドは深い、つい引きこまれて時を忘れます
音楽とともに、なんて素敵なのかしら、、
by engrid (2016-06-08 18:16) 

自分の通勤は混む方向とは逆方向、必ず座れます
でも15分程度なのでページはたいして進みません＾＾；
by さる１号 (2016-06-08 19:17) 

「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」と「HAVE A NICE DAY」
って意外性があって、ちょっと面白いです。
なるほど、そういう関連づけってありますね。
それが自分独自のものであっても、一種のキーワードであって、
自分にとっては切実な記憶となります。
by lequiche (2016-06-09 03:42) 

黒幕のゲルニカ、はやく読みたいなー^^
図書館の順番待ちで12番まで来ました！
羊と鋼の森は、138番待ちｗｗｗ
通勤で本が読めなくなるのは悲しいですね；；
by リュカ (2016-06-09 10:41) 

読んだ本とともに曲が、またよみがえってくるって、素敵な組み合わせですね＾＾
絵画に興味があると、原田マハさんの本は、より興味深く読めますね。
それこそ、マグノリアの木を見る機会があり、原田さんの小説が浮かびました。記事にもしたところです＾＾
通勤時に読書の時間が減ってしまうのは、ちょっと残念ですね。

by アールグレイ (2016-06-09 10:45) 

昨日はコメント入れられなんだ。。
原田マハさんの、ほとんど読んでまする。
最新刊なんですな？「暗幕のゲルニカ」。
なんや難しそうやけど入りこめるかなぁウチ。
「江ノ島西浦写真館」も読んでみたいそょ。
あ、そうそう。
「漂流郵便局: 届け先のわからない手紙、預かります」っちゅう本も良さげです。
写真が好きな人にはめっけもんだと思う。
by suzu* (2016-06-09 11:18) 

通勤時間を読書に使えなくなってしまったのは残念でやすね。
好きな曲を聴きながら好きなお酒を飲みながら好きな本を読む、至福のときでやすね。
こういう時間があるからまた一週間がんばろうって思えやすね。
by ぼんぼちぼちぼち (2016-06-09 11:30) 

勤務地が変わったのですね。
今までの朝の楽しみが無くなったら仕事にも
影響あるかも知れませんね^^;
その分お休みの日はビールを飲みながら
音楽を聴いて読書をして そして大好き場所へ・・・
充実したお休みなりそうですね(^^)

by Kiki (2016-06-09 17:06) 

ビールを飲んで音楽を聴いて、読書を楽しむ休日は最高ですね。
そういえば、最近、電車の中で読書をする人が減りましたね。
by toshi (2016-06-09 21:27) 

本と曲を一緒に記憶してるというのがすごいな〜、と思います。器用ですね♪
私はどっちか一つで、両方は無理＾＾；。
たいてい本を読み出すと、音楽が耳に入ってこなくなって・・・。
そんな感じで美術館の音声ガイドも借りられず。
ガイド聞きながらだと絵に集中できないんですよね。
絵に集中すると、今度はガイドが頭に入らなくって・・・＾＾；。
by Inatimy (2016-06-10 06:21) 

本を読む時間と根気を取り戻さないと
頭がスカスカになりそうです＾＾
by shino* (2016-06-10 06:27) 

ナビバさん、いいなぁ～(笑)
変わる前はぼくも郊外だったので、必ず座ることができました。
笑　ぼくも寝ちゃうことが多かったですが ^^;
by moz (2016-06-10 06:53) 

takenokoさん、「羊と鋼鉄の森」読まれんだですね。
宮下奈都さん、独特の世界ですよね。それに自分的には好きな音楽がテーマになっていてとても面白かったです。北鎌倉に行かれていないですか?
じぶんもご無沙汰なんです。
イワガラミ見たかったな。　^^;
by moz (2016-06-10 06:56) 

きよたんさん、そうですよね。
時間があっても違うことをしてしまうのに、不思議と電車の中では本が読めちゃいますよね(笑)
きよたんさん、最近はお出かけが多いみたいですね。ブログ、色々と教えて頂いて楽しいです。
はい、これはこれで良いと思います ^^v
by moz (2016-06-10 06:57) 

ponnta1351さん、やはり原田マハさんがお好きなんですね。
お仲間だ(笑)
たくさん原田さんの作品を読まれていて、ぼくよりもたくさんかもしれません。　^^
宮部さんの作品も面白いです。
そして、いよいよ、ゲルニカなんですね。
読まれたらぜひ、感想をお願いします。楽しみにしています ^^　
by moz (2016-06-10 07:02) 

私は読書はしません（^^;
でも、ブログ巡りを１日中してれば本を一冊読んだくらいな感じでしょう？
by えーちゃん (2016-06-10 12:42) 

engridさん、engridさんも原田マハさんがお好きでしたよね。
ここにも仲間が(笑)
ほんとです、マハワールドはとても素敵だと思います。ぼくも大好きです。読まれたら、感想を教えてください m(__)m
音楽は部屋にいるといつも源泉かけ流しです(笑)
良い本を読んだ時にかけていた時の曲は、その本と一緒にずっと覚えてます。　^^
by moz (2016-06-10 17:17) 

さる１号さん、さる１号さんも反対方面なんですね。いいな、うらやましいです ^^;
えーっ、しかもしかも１５分ですか?
本は読めないけれど、すごーーくうらやましいです。
by moz (2016-06-10 17:19) 

lequicheさん、意外ですか?
ちょうど読んでいるときに、ボンジョビを聴いていて、良い本だったし感動とともにボンジョビのHAVE A NICE DAY が心の引き出しの中にしまい込まれてしまいました。 ^^;
ハードボイルド=HAVE A NICE DAY　みたいに ^^

これだけではなくて、関連付けってあると思います。
夏のトウモロコシ畑のにおいと、子供のころのおばあちゃんちの想い出とか、歯ブラシと親友のこととか? 笑
もちろん、こういうのは個人的ですね。人には関係なくて、自分の大切な想い出たちですよね　^^v


by moz (2016-06-10 17:26) 

リュカさん、おもしろかったでーーす!!
黒幕のゲルニカはとっても面白かったですよ。１２番なんですね、もうすぐかな? ぜひぜひ、読んでみてください。絵の好きな方だったらもう～大変だと思います(笑)
えーーっ、羊と鋼の方は? １３８番目なんですか? あれれ ^^;
こちらは大変なことになっているんですね。こちらも独特な世界、宮下奈都の世界もいいなと、読んで思いました。近ければ両方ともお貸しできるのに ^^; 良い本です、こっちも。

by moz (2016-06-10 17:31) 

アールグレイさん、部屋にいるとき、必ず音楽をかけています。
音楽大好きです ^^
本も好きなので、良い本に巡り合ったとき、その時に聴いていた曲がセットで記憶されています。
今回もそんなセットが一組で来てしまいました。
マグノリア・・・、覚えてます。マチスとマリアですね。
これもとても素敵なお話でしたよね。記事にされているんですね。
後でお伺いします。とっても楽しみです。　^^
以前は郊外だったので、そんなに混んでいなかったのですが、今はつぶされてます ^^; 笑
by moz (2016-06-10 17:36) 

suzu*さん、２度も来ていただいてありがとうございます。m(__)m
suzu*さんも原田マハさんのファンなんですね。うれしいです。 ^^
いいえ、難しくないです。ぜひぜひ、読んでみてください。
きっと、原田マハさんが書きたかった本、満を持して書かれたものだと思います。とっても良かったですよ ^^v
江ノ島西浦写真館、オレンジ色、斜めの光? いい感じでした。続きもありそうな感じです。
ありがとうございます。
漂流郵便局: 届け先のわからない手紙、預かります、読んでみますね。
実は今日、２件くらい本屋に行ったのですが、在庫がありませんでした。
amazon かな?
by moz (2016-06-10 17:42) 

ぼんぼちぼちぼちさん、時間はそれほど変わらないのですが、とにかく混雑の具合は大幅に変わってしまいました ^^;
本は読みたくても取り出せもしない感じです(笑)
本も音楽も酒も? 全部大好きです。そうですね、ほんとに至福の時なのかもしれません ^^v
はい、２５時間目、７．３日目? そんな時間たちを大切にしたいと思います。
by moz (2016-06-10 17:48) 

Kikiさん、郊外から都心に向かう電車になりました。
昔ほどはラッシュもすごくないのかもしれませんが、それでも吊革に掴れれば良い方です ^^;
笑　そうですね、帰ってくると冷蔵庫を開けて冷たいビール!!
リングプルをプシュってすると、ようやくスイッチオフで仕事モードから解放です(笑)
充実しているかは分かりませんが、こういう時間はやっぱり必要だと思います。 ^^
by moz (2016-06-11 06:20) 

toshiさん、はい、これからの季節ますます部屋にいて、ビールとCD と本の時間が増えそうです(笑)
そうですね、皆さん液晶を覗いていますね。本を読む人は少なくなりましたよね ^^;
by moz (2016-06-11 06:21) 

Instimyさん、本当に集中すると聴いていても聞こえなくなるのだと思いますが、逆もあります。素敵だと読めなくなったり。
ぼくの場合、本とCD は映画の映像と音楽の関係かもしれません。
勝手にその本を映像化してテーマも鳴らしているのかも?
Inatimyさんは本当に絵の中に集中して入っていかれているんだなぁ～ ^^ すごいですね。
分かります、その感覚。とても集中されているのだと思います。
ぼくは展覧会に好きな音楽連れて行ったこともあります。それから、ノイシュバンシュタイン城に行ったときは、ワグナーをWalkman で聞いたこともあります。音楽は感情をより高めてくれる効果もあるみたいです。^^
by moz (2016-06-11 06:26) 

shino*さん、笑　そんなことはないと思います。
でも、忙しくて時間がないとなかなか本は読めないですよね。
これから雨の季節ですから、これからでしょうか? ^^
by moz (2016-06-11 06:27) 

えーちゃんさん、そうですね、一日ブログを見ていたら、本一冊分くらいにはなりますね。
それもすごいです ^^v
by moz (2016-06-11 06:28) 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
これお気に入りです♪　音楽とのコラボレーション。。。素敵です☆彡
by ラブスコール (2016-06-11 09:42) 

ラブスコールさん、ぼくも「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は大好きです。 ^^v
ボンジョビと一緒にインプットです!!
by moz (2016-06-12 16:29)