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PETER DOIG展 《見たいものリストNo.3》:20200619 [展覧会]

帳が明け、

緑のカーテンの向こうは、ライトグレーの空。


控えめな光の朝からは、雨の音が聴こえてきました。


TIKU TAKU 、TIKU TAKU、……時を刻む音より、しっかりと雨の音、雨の音、音、音……。 

「家にいたら」と囁いているかのようでした。

でも…、

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この日に決めてからずっと楽しみにしていた6月19日金曜日は、有給休暇を取って、前売り券2枚で「はしご」をと

企んでいました。

皆さんが働いている間、密かに細やかに楽しんでしまおうかと。

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2月2日にソール・ライター展を見に行ってからですから4か月ぶりの展覧会です。


緊急事態宣言中は休館だった、西洋美術館と近代美術館の展覧会を二つとも見ようと思っていたのです。

ただ、当日ネットで西洋美術館の「ロンドンナショナルギャラリー展」の混雑状況を調べると、

18日から22日までは、前売り券等を持っている者のみ限定で鑑賞できる日だったのですが、

19日は朝の段階で、既に整理券は午後3時くらいのものとのこと…。


あまり待つのも嫌だなと、西洋美術館は7月に時間指定券をゲットしてから行くことにして、

はしごではなくなりましたが、とても楽しみにしていた近代美術館の「ピーター・ドイグ展」へと向かいました。

《天の川 1989~1990年 152×204》
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2020年「見たいものリストNo.3」です。 じ~~ん !! じ~~ん!!

ようやく、ようやく、2020年の見たいものリストから3つ目の展覧会。

長かったよう~と、ようやく来られたよう~と。


竹橋で地下鉄を降り、信号待ちをしている傘にパチパチと強い雨。

パチパチの雨の音も、新鮮、心地よい音だな。


近代美術館に入る際は、わくわくドキドキで、入館時の体温チェックに引っかかってしまうのではと心配も。

近代美術館も時間制で入館者を管理していましたが、前売り券を持っているので、鑑賞はいつでもOK。

待つこともなく、体温チェックにも引っかからず !! 無事に入ることかできました。

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今年も、日経大人のOFF を見て「見たいものリスト」を決めたのですが、

雑誌の印象派やフェルメール等の気に入りの絵の中で、一枚の初めて見る絵を見つけてしまいました。


緑とブルーの空と湖、真ん中には海賊の船長と山高帽という変わった衣装の2人が記念撮影の様に並んでいる。

奥へと延びる道の両側を覆う壁は、マーブルカラーでガウディ風。しかも、星降る夜の様…。

知らない画家、知らない絵でしたが、とても惹かれてしまいました。

ピーター・ドイグを知ったきっかけです。  そして、

この日ようやく会うことができました。

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ピーター・ドイグ、近代美術館のサイトからです。

1959年、スコットランドのエジンバラ生まれ。カリブ海の島国トリニダード・トバゴとカナダで育ち、
1990年、ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで修士号を取得。
1994年、ターナー賞にノミネート。2002年よりポート・オブ・スペイン(トリニダード・トバゴ)に拠点を移す。
テート(ロンドン)、パリ市立近代美術館、スコットランド国立美術館(エジンバラ)、バイエラー財団(バーゼル)、分離派会館(ウィーン)など、世界的に有名な美術館で個展を開催。
同世代、後続世代のアーティストに多大な影響を与え、過去の巨匠になぞらえて、しばしば「画家の中の画家」と評されている。

《カヌー=湖 1997~98年 200×300》
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まだまだ現役バリバリのアーティストなのですね。

《エコー湖 1998年 230.5×360.5》
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雑誌で一枚の絵を見ただけでしたから、初見の絵ばかりでしたが、

でも、なぜか懐かしい感じ? どこかで出会ったことがあるような感じと、

詩情あふれる色彩に、一瞬でとらわれてしまいました。そして、ピーター・ドイグの世界にどっぷりです。

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帰って来て、買ってきた図録を読んで知りましたが、

ピータードイグは、スナップショット、雑誌の切り抜き写真、ポスターや古い絵葉書等から、

または映画等(湖とカヌーや小舟のイメージは13日の金曜日からのイメージなのだそうです)から、

多くのインスピレーションを受けて作品を描いているのだそうです。

《若い豆農家 1991年 186×199》
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そのせい?

どこかで会ったことのある? 抒情的な風景、どこか不安な気持ちにさせる景色 etc etc …は、

ぼくたちの潜在意識の中にある風景?

夢の中の景色の様です。


また、上の《エコー湖》のパトカーがあるので警察官? はムンクの叫びを思い起こさせますし、

《若い豆農家》はゴッホの作品を想起させます。


作品も、どこかでみたことがあるような? そんな感じにさせるものが何枚もありました。

《若い豆農家》は和的な感じも? 、ジャポニズムの系譜も流れている様な、そんな感じもしました。

《ロードハウス 1991年 200×250》
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そして、この展覧会に来ようと思ったきっかけの絵にも会うことができました。

《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ》と言う作品なんだ !!

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図録によると、

基本構図はドイツのダム湖を写した古い白黒の絵葉書を参照して作られていて、

ダムの門前にいる二人はドイグが学生時代に英国国立歌劇場の衣装係として働いていた際に撮った写真に由来しているとのこと。

シュルレアリズムのコラージュみたいな構成で描かれているのだと知りました。

場所も時間も全く異なって、なるほど、それで、夢の中の様な不思議な感じがするのだなと。


画面は、もやもやとした煙の様な前景、真ん中のダム湖の景色、後景のオーロラの様な空と三分割されていますが、

前景はフェルメールの作品のテーブルに敷かれたクロスや、カーテン等の様に奥行きを感じさせる効果もあり、

絵の前に立つとまるでじぶんもそこ、夢の中の場所に立っている様だなと。

そして、

上から三枚目に載せておいた《天の川》もそうですが、不思議な緑と青の空にキラキラと光る星たちの景色は、

ゴッホの「ロレーヌ川の星月夜」の様にロマンチックです。

《ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ 2000~02年 196×296》
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良いな、

やっぱりこの絵、良かったです。

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でも、この絵だけではありません。

この《ラベイルーズの壁》は、エドワード・ホッパーを思い出しました。

《ラベイルーズの壁 2004年 200×250.5》
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ホッパーの作品も冷たさと暖かさが同居しているようで、冷めているようで実は温かくて、大好きなんですが、

それと同じような感じをこの絵から感じました。

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自分がそこにいた訳ではないのに、

まるで自分もそこにいたかのように思えて来る。ちょっと不安で、でも、懐かしい感じ…。

《ピンポン 2006~08年 240×360》
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そんな感じはホッパーに、また、同じく大好きな佐伯祐三とかにも近いのかもしれないなと、勝手に納得。


そうそう、この展覧会は写真を撮ってOKの展覧会でした。

撮った写真をSNS で拡散してくださいとのことでした !!

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《夜の水浴者たち》も惹かれました。

本歌取りではないけれど、見たとたんに思い出したのは、ルソーの作品。

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ルソーの「眠るジプシー女」です。

砂漠と海では場所も違うけれど、静かな満月の夜に横たわった髪の長い女性。

静寂さと神秘的な月の光と…、澄んでピュアな月光の音楽が聞こえるようで、素敵な作品だなと。

《夜の水浴者たち 2019年 200×275》
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画家はそう思って描いている訳ではないのでしょうね。

ただ、絵画の中に流れるDNA みたいなものがあって、コラージュの様な方法で描いていくとき、

デジャブの様にそれらがイメージとして、キャンパスと言う印画紙に定着される…etc etc…。

そんなことがあるのかなと。


我々の中のプリミティブな記憶が無意識のうちに顕在化してくるように…。

《花の家(そこで会いましょう) 2007~09年 300×200》
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この絵《ポート・オブ・スペインの雨》は、前売り券のおまけとして付いてたA5ノートの表紙の絵でもありました。

前売り券を買うのなら、やはりおまけの付くものが良いです。


ライオンが印象的なこの絵も、見れば見るほど不思議な絵でした。真ん中のライオンから向って左に目をやると、

半透明? 実在が消えてしまいそうな人物がこちらに歩いてきていて、更に奥へ目をやると、

白い灯台が。

あまり政治とか主義主張とか、宗教とかイデオロギーとか etc etc …、ピーター・ドイグにはそう言うものは多くは感じられない作品が多いですが、

この絵は、アフリカ出身者の地位向上の象徴であるライオン、黄色い監獄の中には人のシルエットがあるので、

アフリカ出身者の差別等を描いているのかもしれないなと。

《ポート・オブ・スペインの雨(ホワイトオーク) 2015年 301×352》
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久し振りに開けてくれた美術館、

もっと混雑しているのかと思いましたが、

雨の日であったこと、時間制でチケットを販売していること等々から、

かなり空いていて、1時間半くらい、静かな美術館で時間を過ごすことができたし、

久し振りに、作品たちと、脳内陣地取りを楽しむことができました。

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ピーター・ドイグ、素敵な画家。 そして、「クレオール」と言う言葉が脳内メモリに記憶されました。 

展覧会を見て、また、図録の中の解説で一つ記憶に残った言葉です。

wikipediaによると、
意思疎通ができない異なる言語圏の間で交易を行う際、商人らなどの間で自然に作り上げられた言語が、その話者達の子供たちの世代で母語として話されるようになった言語を指す。
とのことですが、

ピーター・ドイグの「クレオール」。

世界の様々な場所から到来した異質な文化的な要素が互いを排除することなく、全く等価に共存しあい、

予見不可能なものを生み出す現象のこと。

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ピーター・ドイグの作品たちは、時間を超えて場所を超え、色々な要素が互いを親和的に結び付け、

新たな一つのものとして存在している。

正に、「クレオール」なんだなと。

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お腹はすきましたが、外で食事をするのはまだ何となく…。もう少しかなと思ってしまっています。

そこで? 成城石井さんでワインを買ってきて家で図録を眺めながら頂きました。


ずとっ以前から、イタリアに行った時に色々と頂いてからです、

イタリアの各都市のワインが気になっていて、

最近でも美味しそうなイタリアワインがあると、連れて帰ってきてしまいます。くいくいと、くいくいと、

気が付くと一本開いていました  ^^;

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そうそう、昨日(7月4日)は、この日行くことができなかった西洋美術館へ、ロンドン・ナショナルギャラリー展へ行ってきました。

ゴッホの「ヒマワリ」、ムリーリョの「窓枠に身を乗り出した農民の少年」等々素晴らしかったし、

何といっても久しぶりのフェルメールにも会ってくることができました。満足 !!

こちらも時間制で人数を制限しているからでしょうか、とてもゆっくりと充実した時間を過ごすことができました。

時間制って良いのかもしれません。これからも続けてもらうと良いかな。


このように、ようやく、ようやく、美術館に行けるようになり嬉しいのですが、

東京はここのところ、感染者が多くなっていて、とても心配です。

また、美術館等に行けなくなることがないと良いのですが。

" 2020/06/19 Peter Doig 2020 "
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